自社のオンラインサービスで、本人確認の手間によるユーザーの途中離脱や、確認作業にかかる運用コストに悩まされていませんか。本記事では、従来のKYCとの違いや、犯収法(マネーロンダリングなどを防ぐための法律)に対応した認証方式から、導入のメリット・デメリットまで具体的に解説します。

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eKYC(電子本人確認)とは

eKYC(electronic Know Your Customer)とは、顧客の身元確認をデジタル技術によってオンラインで完結させる電子本人確認の手法です。

銀行口座の開設やサービス登録時など、さまざまな場面で求められる本人確認を来店や郵送なしに行えるため、近年多くの業界で導入が広がっています

ここでは基本の仕組みと、従来手法との違いを整理します。


eKYCの基本的な仕組み

eKYCは、スマートフォンやパソコンのカメラを用いて、本人確認書類と利用者の顔写真を撮影・送信することで本人確認を完了させる仕組みです。

これまで対面での身分証提示や、郵送による書類のやり取りで行っていた作業を、すべてデジタル空間へ移行します。

サービスに申し込んだその場で手続きが終わるため、スピーディーな取引が実現します。

従来のKYCとの違い

従来のKYCでは、企業側が転送不要郵便をユーザーの自宅へ送り、受け取りを確認することで住所確認を行っていました。

この方法では、申し込みからサービス利用開始までに、数日から数週間のタイムラグが発生します。

企業側にも郵便物の発送手配や費用、戻ってきた郵便物の処理といった事務負担が重くのしかかります。

これに対しeKYCは即日で確認作業が終わるため、双方の手間と時間を削減できます。

なぜ近年eKYCの導入が急速に進んでいるのか

eKYCはここ数年で金融業界にとどまらず、通信・保険・不動産など幅広い分野へ急速に浸透しています。

その背景には法制度の整備やデジタル社会の進展といった複合的な要因があり、企業にとってeKYCの導入は「選択肢のひとつ」から不可欠な対応へと位置づけが変わりつつあります。

導入が加速している主な3つの理由を整理します。


犯収法改正による法的整備

2018年の犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)施行規則の改正により、eKYCの手法が法的に本人確認として認められました

これにより、金融機関をはじめとする厳格な本人確認が求められる業界でも、郵送を伴わないオンライン完結の手続きが可能になりました。

法的な裏付けができたことが、導入拡大の大きな契機となりました。

参考:
「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の公表について:金融庁

非対面サービス普及とセキュリティ需要の高まり

スマートフォンの普及やコロナ禍を経て、あらゆるサービスが非対面化する中で、なりすましや不正利用のリスクが高まっています。

企業は利便性を高めつつ、強固なセキュリティを担保する必要に迫られました。

目視での確認や簡単な情報入力だけでなく、デジタル技術を活用して本人であることを確実に証明する手段として、eKYCへの期待が高まりました。

マイナンバーカードとICチップ認証の普及

マイナンバーカードの交付率が上がり、スマートフォンでカードのICチップを読み取る技術が一般化したことも導入を後押ししています。

ICチップには偽造が極めて困難な電子証明書が格納されています。

この情報を活用すれば、写真を撮影する方式よりもさらに高い耐改ざん性で安全な本人確認が行えるため、より厳格な確認が求められる場面で採用が広がっています

法律で定められたeKYCによる4つの本人確認方式

eKYCは企業が自由に設計できるわけではなく、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)の施行規則で認められた方式に準拠する必要があります。

方式ごとにセキュリティの強度やユーザーの操作負担が異なるため、自社のサービス特性に合った本人確認方式を選ぶことが重要です。

代表的な4つの方式を解説します。


方式(条項) 送信するもの 特徴
書類画像+容貌(ホ) 本人確認書類の画像+顔写真 スマホだけで完結し最も普及
ICチップ+容貌(ヘ) ICチップ情報+顔写真 画像偽造リスクが低く金融機関向き
書類画像+金融機関照会(ト) 書類画像またはICチップ情報+金融機関への照会 顔写真の撮影が不要
ICチップ読み取り(カ) マイナンバーカードのICチップ+暗証番号 より高い安全性で氏名・住所も自動入力

書類画像+容貌の撮影送信(ホ)

ユーザーがスマートフォンで運転免許証などの写真付き本人確認書類と、自分自身の顔写真を撮影して送信する書類画像+容貌の方式です。

犯収法規則六条一項一号「ホ」に該当します。

カメラ付きのスマートフォンさえあれば利用できるため、ユーザーの負担が少なく、現在最も広く普及しているeKYC手法です。

参考:
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 | e-Gov 法令検索

ICチップ情報+容貌の送信(ヘ)

本人確認書類に埋め込まれたICチップ情報をスマートフォンで読み取り、それに加えて利用者の顔写真を撮影して送信する方式です。

犯収法規則六条一項一号「ヘ」に該当します。

画像の偽造リスクを減らせるため、より確実な本人確認を求める金融機関で導入が進んでいます。

参考:
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 | e-Gov 法令検索

書類画像+金融機関への照会(ト)

本人確認書類の画像かICチップ情報を送信したうえで、ユーザーがすでに本人確認を済ませている銀行などの金融機関へ顧客情報を照会する方式です。

犯収法規則六条一項一号「ト」に該当します。

既存の金融機関の信頼性を活用するため、顔写真の撮影が不要になる利点があります。

参考:
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 | e-Gov 法令検索

マイナンバーカードのICチップ読み取り(カ)

マイナンバーカードのICチップに記録された電子証明書をスマートフォンで読み取り、暗証番号を入力することで本人認証を行う方式です。

犯収法規則六条一項一号「カ」に該当する公的個人認証サービスを利用します。

偽造が極めて困難なうえ、氏名や住所などの情報が自動で入力されるため、安全性と利便性を高い水準で両立する方法として注目されています。

参考:
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 | e-Gov 法令検索

eKYCの安全性を担保する最新のセキュリティ技術

eKYCは対面での確認を省略する分、オンライン特有の不正リスクへの対策が重要になります。

偽造された身分証の提出や他人の写真を使ったなりすましなど、デジタルならではの攻撃手口に対抗するため、複数の先端技術が組み合わされています。

eKYCの安全性を支える代表的な4つの技術を解説します。

eKYCは本人確認時点の安全性を高める仕組みですが、不正ログインやアカウント乗っ取りなど、その後のアクセスリスクまではカバーできません。

そのため近年では、IPアドレスや端末情報などを組み合わせたリスクベース認証を併用する企業も増えています。


技術 防ぐ脅威 仕組み
AI画像認証 偽造身分証の提出 ホログラムやフォントの微細な異常をAIが自動検出
ライブネスチェック 写真・動画によるなりすまし まばたきや顔の動きで生身の人間かを判定
通信・データの暗号化 通信傍受・情報漏洩 送信データを強固に暗号化し第三者の解読を防止
IPアドレスによるアクセス環境の検証 身元秘匿による不正申請 申請者の位置情報や匿名ネットワーク利用をIPアドレスから判定

AIによる偽造検出

送信された本人確認書類の画像に対し、AIを活用して偽造の痕跡がないかを自動判定します。

書類の厚み、ホログラムの反射具合、フォントの不自然な歪みなど、人間の目では見落としがちな微細な異常も高速で検出できます。

これにより、精巧な偽造身分証を使った不正を未然に防ぎます。

ライブネスチェックによるなりすまし防止

スマートフォンのカメラの前でまばたきをしたり、顔の向きを変えたりする動作を要求し、カメラの前に生身の人間がいるかを確認します。

このライブネスチェック(生体検知:対象が生きている人間であるかを判定する技術)により、他人の写真やディスプレイに映した動画、精巧なマスクを使ったなりすましを排除します。

通信・データの暗号化による情報保護

ユーザーの端末から企業のサーバーへ送信される顔写真や身分証のデータは、通信経路上で強固に暗号化されます。

万が一通信が傍受されても、第三者が内容を解読することは極めて困難です。

システム自体にも脆弱性対策が施されており、個人情報の漏洩を防ぐための安全管理が徹底されています。

IPアドレスによるアクセス環境の検証

eKYC手続き時に、IPアドレスから推定される地域や接続環境を確認し、不自然なアクセスがないかをリスク判断材料として活用します。

申請者のIPアドレスからアクセス元の位置情報や接続環境を取得し、本人確認書類に記載された住所との整合性を照合する技術です。

たとえば、日本国内の住所で申請しているにもかかわらず海外のIPアドレスからアクセスしている場合や、通常と異なる地域からログインしている場合には、不正の疑いがあるとしてセキュリティレベルを引き上げる判断材料になります。

加えて、VPNやTor、公開プロキシなど身元を秘匿できる匿名ネットワークを経由したアクセスや、不特定多数が利用する公衆Wi-Fiからのアクセスを検知することで、本人確認の信頼度に応じた対応の振り分けが可能になります。

書類や生体認証だけでは見抜けないアクセス環境の異常を補完する、重要なセキュリティレイヤーです。

【関連記事】
IPアドレスに紐づけられた情報と活用方法(環境編)|どこどこJP ナレッジセンター

企業がeKYCを導入するメリット

eKYCの導入は、本人確認にかかわる業務負担を軽減するだけでなく、サービス全体の顧客体験を向上させる効果があります。

紙の書類や郵送を前提とした従来フローからの転換により、企業・ユーザー双方が具体的な恩恵を受けられます。

ここでは導入によって得られる代表的な3つのメリットを整理します。


メリット 概要
運用コストの大幅削減 郵送費・印刷費・紙の保管スペースと人的作業をほぼゼロにできる
ユーザー離脱の防止 即日でサービスを利用開始でき、待機中の他社乗り換えや放置を防げる
情報漏洩リスクの低減 暗号化されたデジタルデータで一元管理し、アクセス履歴も記録できる

郵送費・保管コストの大幅削減

転送不要郵便の発送にかかる切手代や封筒代といった直接的なコストに加え、書類の印刷、封入、発送状況の管理といった人的コストをゼロに近づけられます。

受け取った紙の書類を鍵付きの書庫で長期保管するスペースや手間も不要になるため、本人確認業務全体の運用コストを大きく圧縮できます。

即日利用によるユーザー離脱の防止

申し込みから数分で本人確認が完了し、その日のうちにサービスを利用し始められるため、ユーザーの熱量が高い状態で取引を開始できます。

郵送の手続きを待つ間に他社のサービスへ乗り換えられたり、面倒になって手続きを放置されたりする途中離脱のリスクを最小限に抑えられます。

デジタル一元管理による情報漏洩リスクの低減

身分証のコピーや申込書といった紙媒体を持ち歩いたり、デスクに放置したりすることによる物理的な紛失・盗難リスクを大幅に低減できます。

すべての個人情報を暗号化されたデジタルデータとしてアクセス権限を設けて管理するため、誰がいつ情報に触れたかの記録も残り、社内での情報漏洩対策を強化できます。

上記のほかにも、AML対策、コンプライアンス、不正利用防止、オペレーション効率化などのメリットが挙げられます。

企業がeKYCを導入するデメリット

eKYCは多くのメリットをもたらす一方、すべてのユーザーにとって万能な手法ではありません。

手続きがスマートフォンの操作や撮影環境に依存するため、条件次第ではかえってユーザー体験を損なうリスクもあります。

導入を検討する際に押さえておくべき2つの課題を解説します。


デメリット 概要 対策の方向性
スマホ操作に不慣れな層の離脱 高齢者などがエラーの繰り返しで手続きを諦めてしまう 郵送・対面など従来手段の併用
撮影環境による再撮影の発生 暗所や光の反射で審査に落ち手続きが長引く 撮影画面での注意喚起の表示

スマホ操作に不慣れな層の離脱リスク

カメラのピント合わせや、指定された枠内に身分証を収める操作を難しく感じるユーザーが一定数存在します。

特に高齢者などスマートフォンの操作に不慣れな層は、エラーが続くと手続き自体を諦めてしまう可能性があります。

ターゲット層によっては、従来の郵送や対面での確認手段を併用する配慮が求められます。

撮影環境に起因する再撮影の発生

暗い部屋での撮影や、身分証に光が反射して文字が読み取れない場合、審査に落ちて再撮影を依頼しなければなりません。

ユーザー側で適切な環境を用意する必要があるため、一度で審査を通過できず、かえって手続きの時間が長引く原因になります。

撮影画面で明るさや反射に関する注意喚起を分かりやすく示す入力支援の工夫が必要です。

eKYCはどのようなシーンで活用されているか

eKYCの活用範囲は、法律で本人確認が義務付けられている金融・通信分野にとどまりません。

不正転売の防止やユーザー間トラブルの抑止など、企業が自主的に安全性を高める目的でも幅広く採用されています。

具体的にどのような業界・サービスで使われているのか、代表的な活用シーンを紹介します。


銀行口座開設・携帯電話契約などの法定義務領域

マネーロンダリング防止が目的の犯罪収益移転防止法や、携帯電話不正利用防止法などにより、厳格な本人確認が義務付けられている領域です。

銀行口座の開設、クレジットカードの発行、証券口座の開設、仮想通貨の取引所登録などで導入されています。

これらの業界では、利便性よりも確実な本人確認を優先し、ICチップ読み取り方式の採用も進んでいます。

不正転売防止を目的としたチケット販売

高額転売を防ぐため、イベントやコンサートのチケット販売プラットフォームが自主的にeKYCを導入するケースが増えています。

購入者と当日の来場者が同一人物であることを保証し、不正な買い占めや偽造チケットの流通を防止します。

アーティストや主催者の権利を守りつつ、ファンに公平な購入機会を提供しています。

シェアリング・マッチングアプリでのトラブル防止

見知らぬ人同士が取引や交流を行うプラットフォームにおいて、なりすまし犯罪行為を防ぐために活用されています。

カーシェアリングでの無免許運転防止や、マッチングアプリでの年齢偽証業者アカウントの排除に役立っています。

利用者が互いに安心してサービスを使える環境づくりに直結しています。

自社に最適なeKYCサービスを選ぶ際の比較ポイント

eKYCサービスはベンダーごとに対応する認証方式や連携のしやすさ、操作画面の設計思想が異なります。

自社の業種・規模・ターゲット層に合わないサービスを選ぶと、期待した効果が得られないだけでなく、かえって離脱率を高めるリスクもあります。

導入前に確認しておきたい5つの比較基準を解説します。


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セキュリティ要件に基づく認証方式の選定

自社のサービスが犯罪収益移転防止法などの法律による規制対象かどうかを確認し、要求されるレベルを満たす認証方式を選定します。

例えば金融機関であれば、ICチップ読み取り公的個人認証など、偽造リスクの低い方式が適しています。

一方、法律の縛りがない自主的な導入であれば、離脱率の低さを優先して画像送信方式を選ぶといった判断が軸になります。

既存システムとの連携のしやすさ

現在運用している会員登録システムや自社アプリに対して、開発の手間をかけずに組み込めるかを比較します。

API(Application Programming Interface:ソフトウェア同士を連携させる仕組み)やSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)が提供されており、短期間で実装できるベンダーを選ぶと、初期の開発コストを抑えられます。

ユーザーが迷わない画面設計(UI)

スマートフォンのカメラ機能を利用するため、直感的に操作できるUI(ユーザーインターフェース:ユーザーと機器の接点となる画面設計)を備えているかが重要です。

撮影時のガイド線が見やすいか、光の反射を警告するアラートが適切に出るかなど、実際のユーザー視点で操作性をテストし、離脱率の低いサービスを見極めます。

ベンダーのセキュリティ体制の評価

顧客の顔写真や身分証という機微な個人情報を一時的にでも委託するため、ベンダーのセキュリティ基準を厳しくチェックします。

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やプライバシーマークなどの第三者認証を取得しているか、データの暗号化方式や保管期間に関する規程が明確かを事前に確認します。

不正検知を強化するIPインテリジェンスとの連携

eKYCは本人確認時の安全性を高める一方、確認後のアクセスリスクまではカバーしません。

そのため、IP Geolocationなどを用いてVPN・プロキシ利用や国外アクセスといった不審な接続を検知し、追加認証や審査を行う多層防御を採用する企業も増えています。

eKYCの認証精度をさらに高めるには、前述したIPアドレスによるアクセス環境の検証を組み合わせることが有効です。

eKYCサービスが外部のIP Geolocation(IPアドレスから地理的位置や接続環境を特定する技術)サービスとAPI連携できる設計になっているかどうかも、導入時に確認しておきたいポイントです。

上記のほかにも導入実績やSLA、サポート体制、本人確認成功率、審査速度、OCR精度、APIの保守性、料金体系などの観点も重視しながら検討していくとよいでしょう。

【関連記事】
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まとめ

本記事では、オンライン上で本人確認を完結させるeKYCの仕組みや導入メリットについて解説しました。

  • eKYCはスマートフォンなどを使いオンラインで本人確認を完了する仕組み
  • 犯罪収益移転防止法の改正や非対面サービスの普及を背景に急速に普及している
  • 企業側は確認作業のコスト削減、ユーザー側は即日利用できる利点がある
  • スマートフォン操作に不慣れな層の離脱や撮影不備による再撮影の手間には注意が必要
  • IPアドレスからアクセス環境を検証する仕組みと連携することで不正申請の検知力を高められる
  • 求めるセキュリティ要件や既存システム・外部セキュリティサービスとの連携しやすさでサービスを選ぶ

eKYCの導入は、業務効率化顧客体験の向上を同時に実現する強力な手段です。

自社の要件に合う方式を選定し、IPインテリジェンスなどの補完技術も視野に入れながら、安全でスムーズなサービス提供に役立ててください。

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