AML/CFTは、マネーローンダリング(資金洗浄)とテロ資金供与を防ぐための国際的な枠組みと対策です。本記事では、AML・CFT・KYCの違いや企業が対応すべき具体的な対策、金融庁ガイドラインが求める継続的顧客管理などの要点について解説します。
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AMLとCFTとは
AML/CFTは、金融犯罪から国際社会を守るために各国が連携して取り組む対策の総称であり、両者は密接に関わりながらも異なる目的を持つ概念です。
近年はKYCを含めた一体的な理解が実務担当者に求められており、混同されがちな各用語の位置づけを正しく押さえることが、企業のコンプライアンス対応の出発点となります。

AMLは犯罪収益の資金洗浄を防ぐ対策
AML(Anti-Money Laundering:アンチ・マネーローンダリング)は、犯罪で得た資金の出所を隠し、正当な資金のように見せかける行為を防ぐための対策です。
麻薬取引や詐欺などで得た違法な収益を、金融機関の口座に預け入れたり複雑な送金を繰り返したりすることで、資金の出所を分からなくする手口をマネーローンダリングと呼びます。
こうした犯罪収益の移転を防止し、犯罪組織の資金源を絶つための取り組み全般をAMLとして定めています。
金融機関や特定事業者は、不審な取引の監視や口座開設時の審査を通じて、不正な資金が市場に流入するのを水際で防ぐ役割を担っています。
CFTはテロ組織への資金供与を防ぐ
CFT(Combating the Financing of Terrorism:テロ資金供与対策)は、テロリストやテロ組織へ資金が渡ることを防ぐための取り組みです。
AMLが過去の犯罪で得た違法な資金を対象とするのに対し、CFTはこれから実行されるテロ活動の資金源を断つことを主な目的としています。
テロの資金源には、犯罪による収益だけでなく、寄付金や合法的な事業から得た利益など、資金の出所自体は問題のないお金も含まれます。
出所が合法であっても、その行き先がテロ組織である取引を検知し、阻止しなければならないのがCFTの特徴です。
KYCはAML/CFTの前提となる本人確認
KYC(Know Your Customer:顧客確認)は、AMLやCFTを効果的に実施するための前提となる、厳格な本人確認手続きを指します。
顧客が本当にその人物であるか、あるいは実在する法人であるかを確認し、架空名義や借名による取引を排除します。
金融機関で口座を開設する際に、運転免許証の提示や事業内容の申告を求められる手続きがこれに該当します。
誰が資金を動かしているのかを正確に把握できなければ、資金洗浄やテロ資金供与の疑いを判定できません。
精度の高いKYCを実施することで、初めて実効性のあるAML/CFT体制が機能します。
企業にとってAML/CFT対応が極めて重要になる理由
AML/CFT対策は金融機関だけの課題ではなく、決済サービスや暗号資産交換業を扱う事業者、さらには一般企業にも広く影響が及びます。
対応を怠った場合に生じるリスクは経営全体に波及し、事業継続そのものを揺るがす深刻な事態を招きかねません。
ここでは、企業が優先度を上げて取り組むべき理由を三つの観点から整理します。

気付かぬうちに犯罪組織へ加担するリスク
自社のサービスが意図せずマネーローンダリングの手口として利用され、犯罪組織に加担してしまうリスクが高まっています。
金融機関以外の一般企業が提供する決済サービスやポイントシステムなども、匿名性や利便性の高さから不正利用の標的にされる事件が発生しています。
十分な監視体制が敷かれていないサービスは、犯罪者にとって資金を移動させるための抜け道として悪用されるおそれがあります。
自社が犯罪インフラとして利用されることを防ぐためにも、厳格な顧客管理が重要です。
制裁対象との取引による巨額罰金を防ぐ
制裁対象国やテロ関与が疑われる企業と取引を行った場合、国際社会から巨額の罰金を科される事態を未然に防ぐ必要があります。
アメリカのOFAC(外国資産管理室)などが指定する経済制裁リストに掲載された個人や組織との取引は、各国の法律で厳しく制限されています。
日本の企業であっても、ドル建ての取引や海外の金融システムを経由する場合、海外当局の規制対象に含まれます。
知らずに制裁対象者と取引してしまった結果、数百億円規模の罰金を支払うことになった海外金融機関の事例も存在します。
コンプライアンス違反による信用失墜を回避する
AML/CFT対応の不備が発覚すると、行政処分だけでなくメディアでの報道を通じて企業の社会的信用が大きく失墜します。
監督官庁から業務改善命令などの処分を受けると、その事実は広く公開されます。
結果として不正資金の温床になっている企業というイメージが定着し、既存顧客の離反や新規顧客の獲得困難につながります。
さらに、取引先の金融機関からコンプライアンス上の懸念を持たれ、銀行口座の解約や取引停止の措置を受ける深刻な事態も想定されます。
マネーローンダリングやテロ資金供与の具体的な手法
犯罪組織による資金洗浄は、預入・移転・統合という三段階を経て、正当な資金に見せかけられる流れが古くから定型化されています。
近年はデジタル技術の進化とともに、マネーローンダリングやテロ資金供与の手口もさらに高度化しています。
実効性のある対策を講じるためには、犯罪者がどのような発想で金融システムを悪用するのかを具体的に理解しておくことが欠かせません。

犯罪収益を分割して金融システムに預け入れる
犯罪組織は、巨額の不正資金を少額に分割し、目立たないように複数の金融機関の口座へ預け入れます。
これをプレイスメント(預入)と呼びます。
一度に多額の現金を預け入れると金融機関のモニタリングシステムで検知されるため、報告基準を下回る金額に小分けにして預け入れる手法が一般的です。
複数の人間を雇い、短期間に多数のATMや窓口を巡って資金を分散させるなど、人海戦術を用いて金融システムへの侵入を図ります。
複数口座を経由し資金の出所を隠蔽する
金融システムに入り込んだ資金は、複数の口座間や国境を越えた送金を繰り返すことで、出所を辿りにくくします。
これはレイヤリング(移転・隠蔽)と呼ばれる手口です。
国内の口座から海外の口座へ送金し、さらに別の国の企業口座を経由させるなどして、資金の移動経路を複雑化させます。
株式や投資信託などの金融商品を購入してすぐに売却する行為を繰り返し、資金の性質を変えながら移動させる手法もレイヤリングの一部として用いられます。
正当な事業収益に偽装して回収する
最終的に、架空の事業取引や不動産購入などを通じて、資金を合法的な収益に見せかけて回収します。
この段階はインテグレーション(統合)と呼ばれます。
ペーパーカンパニー間で架空のコンサルティング費用を支払った形にしたり、高級車や貴金属を購入して転売したりすることで、犯罪で得た資金を正当な商取引の利益であるかのように偽装します。
ここまで到達すると、もとの犯罪行為と資金の関連性を証明することが極めて困難になります。
匿名性の高い暗号資産を悪用した資金移動
近年は、法定通貨への換金を経ずに、匿名性の高い暗号資産を用いて国境を越えた資金移動を行う手口が増加しています。
暗号資産の取引はブロックチェーン上に記録されますが、所有者の実名までは公開されない仕組みを悪用し、本人確認の甘い海外の取引所を経由して資金を移動させます。
複数の暗号資産を混ぜ合わせて取引履歴を追跡困難にするミキシングサービスと呼ばれる技術が使われることもあります。
こうした手口は、デジタル空間における新たな金融犯罪の脅威となっています。
日本におけるAML/CFTの規制強化の背景と動向
日本のAML/CFT規制は、国際的な評価と度重なる法改正の流れを受けて、この十数年で大きく様変わりしました。
FATFの相互審査結果を契機に、金融機関のみならず暗号資産交換業者や不動産事業者など、幅広い特定事業者に高水準の対応が求められる時代へ突入しています。
実務担当者が押さえておくべき制度動向を整理します。

FATF第4次審査で日本は重点フォローアップ国に
2021年公表のFATF(金融活動作業部会:マネーローンダリング対策の国際基準を策定する政府間会合)による第4次対日相互審査において、日本は重点フォローアップ国と評価されました。
これは、一定の取り組みは評価されつつも、金融機関の監督体制や非金融業者への規制などにおいて、国際基準を満たしていない項目が複数指摘されたことを意味します。
この評価結果を受け、日本政府と金融庁は、指摘された不備を解消するために法令やガイドラインの改訂を急ピッチで進めています。
参考:
FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書の公表について:金融庁
犯収法改正で取引時確認と記録保存が厳格化
犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)の度重なる改正により、厳格な取引時確認と取引記録の保存が義務付けられています。
非対面取引の普及に伴い、本人特定事項の確認方法であるeKYCのルールも整備されています。
令和7年6月24日に公布された同法施行規則の一部改正命令により、「なりすまし等のリスクの高い本人特定事項の確認方法の廃止」および「新たな技術を用いた本人特定事項の確認方法の新設」が行われます。
また同法では、確認記録・取引記録を契約終了日等から7年間保存することが義務付けられています。
参考:
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 | e-Gov 法令検索
参考:
犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント|JAFIC 警察庁
参考:
犯罪収益移転防止法におけるオンラインで完結可能な本人確認方法に関する金融機関向けQ&A:金融庁
金融庁ガイドラインはリスクベースアプローチを要求
金融庁が公表する「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、金融機関等に対してリスクベースアプローチの実践を求めています。
リスクベースアプローチとは、一律の基準で対応するのではなく、自社が直面するリスクの大きさに応じて対策の強度に強弱をつける考え方です。
低リスクの取引には簡素な確認で済ませる一方、高リスクと評価された顧客や取引には、経営陣の承認を得るなど厳格な対応を行うことが実務上の原則となっています。
参考:
金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(PDF)
企業に求められるAML/CFTの具体的な対策と手順
AML/CFT対策は、顧客の受け入れから継続的なモニタリング、疑わしい取引の届出に至る一連の流れを、日々の業務フローに組み込むことで初めて実効性を持ちます。
属人的な運用では対応が追いつかないため、リスクに応じた措置と専門システムの活用を両輪で進める視点が欠かせません。
以下、代表的な対策を段階別に確認します。

ハイリスク顧客には厳格な追加措置を講じる
マネーローンダリングのリスクが高いと判断される顧客や取引に対しては、通常の本人確認に加えて、資産や収入の状況などを確認する厳格な追加措置を実施します。
外国の重要な公的地位にある人物(PEPs:Politically Exposed Persons)や、マネーローンダリング対策が不十分な国・地域に居住する顧客と取引する場合が該当します。
これらのケースでは、取引目的の再確認に留まらず、資金の原資がどこから来ているかを客観的な資料に基づいて証明するよう求める手続きが加わります。
継続的顧客管理で顧客情報を最新に保つ
口座開設時などの初回確認だけでなく、既存の顧客情報を定期的に更新し、取引目的や実質的支配者に変更がないかを確認する継続的顧客管理が必要です。
法人の実質的支配者が制裁対象者に変更されていたり、個人の職業が変わり不自然な高額送金が行われるようになったりする変化を捉えるためです。
顧客の属性や取引内容からリスクを定期的に見直し、必要に応じて最新の身分証明書の再提出やアンケートの回答を求める運用を業務フローに組み込みます。
疑わしい取引を監視し行政機関へ届け出る
顧客の取引履歴をシステムで継続的に監視し、通常の行動パターンから逸脱する疑わしい取引を検知した場合は、速やかに行政機関(金融庁など)へ届け出ます。
あらかじめ設定したシナリオ(短期間に報告基準値ギリギリの少額送金を繰り返す、など)に合致する取引をシステムで抽出し、担当者が内容を精査します。
取引金額や頻度に加え、アクセス元のIPアドレスから取得できる位置情報や接続環境の情報も、なりすましや不正利用を見抜くための有効な判定材料となります。
調査の結果、経済的合理性が見出せない取引や、犯罪との関連が疑われる取引と判断された案件は、疑わしい取引の届出(STR)として所管行政庁へ報告する義務を果たします。
特にオンライン取引では、取引履歴だけでは判断できないケースも少なくありません。
アクセス元IPアドレスから取得できる「アクセス元の国・地域」「利用ネットワーク」「VPN・プロキシ・Torなどの匿名ネットワーク利用有無」「データセンター経由かどうか」といった情報を組み合わせることで、通常とは異なるアクセスや、なりすましが疑われる取引を早期に検知できます。
例えば、日本国内で本人確認を完了したユーザーが、短時間のうちに海外VPN経由で高額取引を実施した場合や、匿名ネットワークから複数アカウントへアクセスしている場合は、追加認証や取引保留などの判断材料として活用できます。
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IPアドレスに紐づけられた情報と活用方法(環境編)|どこどこJP ナレッジセンター
膨大な確認業務は専門システムで効率化する
継続的顧客管理や取引モニタリングといった膨大な業務を、すべて手作業で行うのは非現実的であり、専門のITシステムを活用して効率化を図ります。
数万件から数百万件に及ぶ顧客データに対し、日々変動する制裁リストとの照合を人力で行うと、確認漏れや判断の遅れが生じます。
AIを利用した不審取引のスコアリングシステムや、クラウド型の本人確認APIなどを導入することで、業務負担を抑えながら精度の高いコンプライアンスチェック体制を維持できます。
また、eKYCや取引モニタリングの精度を高める技術として、IPアドレスから地域情報・組織情報・匿名ネットワーク属性などを判定するIP Geolocation技術の活用も進んでいます。
金融庁のガイドラインでも、接続元IPアドレスや端末情報等を活用した振る舞い検知が、不正アクセス防止策の具体例として挙げられており、オンライン上の本人確認や不正検知の自動化において実務上重要な要素となっています。
例えば「どこどこJP」では、IPアドレスから取得できる位置情報に加え、匿名ネットワーク(VPN・プロキシ・Tor)の利用有無、ネットワーク種別、組織情報など、多数の属性情報をAPIで取得できます。
これらの情報をeKYCや取引モニタリングと組み合わせることで、以下のようなリスク評価を自動化できます。
- 匿名ネットワーク経由のアクセス検知
- 海外からの不審なアクセス検知
- データセンター経由アクセスの判定
- 法人・組織ネットワークからのアクセス把握
こうした自動化は、AML/CFTにおけるリスクベースアプローチの高度化にも役立ちます。
参考:
金融庁「事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係「17.電子決済手段等取引業者関係」新旧対照表」
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不正アクセス対策とIP Geolocation技術~安心・安全なオンライン取引を支える技術~|どこどこJP ナレッジセンター
AML/CFT体制の構築を成功させるための重要事項
AML/CFT対策で成果を上げるには、システム導入や個別ルールの整備だけでなく、経営層のコミットメントと現場の実行力を両立させる組織づくりが重要です。
特定事業者に求められる水準は年々高まっており、片手間の運用では規制対応の抜け漏れや形骸化を招きかねません。
成功に欠かせない要素を三つの観点から解説します。

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経営層主導で組織横断的な管理体制を構築する
AML/CFT対策は一部のコンプライアンス部門に任せるのではなく、経営層が主導して営業部門やシステム部門を含めた組織横断的な管理体制を構築します。
営業部門は顧客との最前線で不審な兆候に気づく役割を持ち、システム部門は取引監視ツールの保守を担います。
経営層がこの問題に十分な経営資源(予算と人員)を割り当て、各部門の役割分担と責任の所在を明確にしたポリシーを策定します。
それにより、組織全体で防波堤として機能する体制が整います。
事業や顧客属性に潜むリスクを特定し評価する
自社の提供する商品やサービス、顧客の属性、取引国などの要素から、どのようなマネーローンダリングリスクが存在するかを正確に特定し、評価します。
このプロセスは特定事業者において「特定事業者作成書面(リスク評価書)」として文書化が求められます。
自社の決済サービスが国境を越えた送金に対応しているか、対面か非対面かといった事業の特性を洗い出します。
それぞれのシナリオでどの程度悪用される余地があるかを客観的に分析し、文書にまとめます。
参考:
国土交通省「リスク評価書作成要領(宅地建物取引業者におけるひな形)」
従業員教育で不審な取引に気づける現場をつくる
社内研修を通じて従業員に最新の犯罪手法や自社のルールを周知し、現場で不審な兆候にいち早く気づける環境を整備します。
マネーローンダリングの手口は日々巧妙化しており、数年前に策定したマニュアルのままでは新たな手口に十分対応できないおそれがあります。
フロントオフィスの担当者に向けて、実際の疑わしい取引の事例を用いた実践的な研修を定期的に行います。
少しでも違和感を覚えたら速やかに管理部門へ報告を上げる社内文化を醸成します。
まとめ
本記事では、AML/CFTの基本概念から、企業が対応すべき具体的な対策や体制構築のポイントまでを解説しました。
- AMLは犯罪収益の資金洗浄を防ぎ、CFTはテロ組織への資金供与を防ぐ
- KYCによる厳格な本人確認がAML/CFTの実効性を担保する
- 制裁リスト対象企業との取引による巨額の罰金や信用失墜を防ぐ必要がある
- リスクベースアプローチに基づき、顧客のリスクに応じた確認措置を講じる
- 経営層が主導し、各部門が連携して疑わしい取引を監視する体制を作る
国際基準の厳格化に伴い、国内の企業に求められるコンプライアンス対応のハードルも上がっています。
自社の事業リスクを正確に評価し、実効性のある管理体制の構築につなげてください。
オンラインサービスでは、本人確認情報だけでは十分なリスク評価が難しいケースもあります。
IPアドレスから取得できる位置情報や匿名ネットワーク情報、ネットワーク環境などを組み合わせることで、より精度の高いAML/CFT対策を実現できます。
どこどこJPでは、AML/CFT対策や不正アクセス対策に活用できるIP Geolocation情報をAPIで提供しています。
匿名ネットワークの判定や位置情報を活用したリスク評価をご検討中の方は、お気軽にお問い合わせください。
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